本研究は、特異極限としてStefan問題を導出できる反応拡散系が持つべき構造を、理論的に探求する。 1年目の昨年度は、棲み分けた2種の生物個体群の間の競争(縄張り争い)を記述するモデルとしてMimura-Yamada-Yotsutani(1985)によって提唱されたStefan型自由境界問題を、特異極限として導出できるような反応拡散系を構成した。(Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics18巻2号に掲載予定。) 本年度は、昨年度得られた反応拡散系が持つ「内部遷移層に付随する角遷移層が2組同時に現れて互いに分離しない」という特徴を本質的に抽出することにより、4つの因子の化学反応を模した反応拡散系を構成した。この新たな反応拡散系は、順序保存力学系の構造が入り、因子間の相互作用を表す項に微分が陽には含まれないという点において、理論的に解析しやすい系と思われる。この反応拡散系は、反応速度を大変速くした極限状況(特異極限)では2相分離を起こし、氷と水の間の融解・凝固を記述するモデルとして有名な元来のStefan問題に帰着される。特異極限がStefan問題になるような反応拡散系としてはphase field方程式が20年ほど前に提案されているが、phase field方程式は順序保存力学系ではなく、因子間の相互作用を表す項に微分が陽に含まれるという点において、理論的に解析しづらい。順序保存力学系であるStefan問題を特異極限として理解するには、本年度構成した反応拡散系の方が好ましいのではないだろうか。 この成果は、The Third World Congress of Nonlinear Analysts(イタリア、カタニア大学、2000年7月)で発表し、近々その報告集が出版される。
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