本研究の目的はHenon写像やLozi写像に対して「kneading理論」や「renormalization理論」の第一歩を確立することにあった。まず「kneading理論」については、Henon写像のJulia集合上のコンビナトリクスを解明するため、Cornell大学のグループとともに数多くの数値計算を行った。しかし、特にパラメータ空間に関する幾つかの興味深い予想などは挙げられたものの、数学的な結果は本年度中には得られなかった。この問題については、より多くのタイプの非自明な例を見つけることが重要となってくるであろう。「renormalization理論」については、(Lozi写像族の一般化である)skew-Lozi写像族に対してくりこみの概念を定義することに成功し、そのくりこみ写像の力学系の大域的性質を調べた。また、与えられたLozi写像のエントロピーを誤差評価付きで計算するアルゴリズムを開発し、それにくりこみの手法を応用した。さらに以上の研究の副産物として、複素Henon写像に対する指数定理やサドル不動点の存在定理の簡単な証明(J.Hubbard氏との共同研究)、Julia集合の量子トンネル現象における物理的意味付け(首藤啓氏、池田研介氏との共同研究〉が得られた。これらの論文は、現在準備中である。
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