研究概要 |
この一年間の主要な研究実績は、以下の三つに分類される。 (1)実平面上の区分的線形写像の族であるskew-Lozi写像族に対して「繰り込み作用素」と呼ばれるパラメータ空間上の力学系を定義し、この族の位相的エントロピーの大域的単調性に関するある予想との関係を議論した。これはD.Sands氏(Universite de Paris-Sud,Orsay)との共同研究である。またこの手法をいわゆる区間演算法と組み合わせることによって、与えられたパラメータにおけるskew-Lozi写像のエントロピーの誤差評価付き計算アルゴリズムへと応用した。 (2)高次元複素力学系の立場から複素Henon写像族の解析をJ.Smillie氏(Cornell University)とともに行った。特に、複素Henon写像が双曲的になるための位相的、あるいはチェック可能な十分条件を提示した。この定理の応用として、一次元の双曲的な二次多項式が複素Henon写像として摂動されたときに双曲性を保つ範囲を、パラメータに関する具体的な条件式として与え、更に双曲的ホースシューのパラメータ領域の新しいバウンドも求めた。論文は現在執筆中。 (3)物理学者の首藤啓氏(東京都立大学)と池田研介氏(立命館大学)らとともに、一次元半古典系におけるトンネル効果とそれに対応した複素Henon写像の力学系との関係を研究した。一般に量子力学の複素半古典論において、ある粒子の遷移確率は複素二次元空間(すなわち相空間)内の経路積分としてあらわされ、その積分に寄与しているものの実平面に含まれない経路全体がトンネル効果を記述すると考えられている。今回の研究で、このような寄与経路の全体と、Hamilton方程式のPoincare断面として得られる複素Henon写像の前方Julia集合との対応関係を、数学的に一部正当化した。論文は現在準備中。
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