研究概要 |
核子あたりの入射エネルギーが数十から数百MeVのエネルギー領域での核衝突を反対称化分子動力学を用いて計算し,中性子過剰核物質の状態方程式決定を目標にして,アイソスピンの非対称性に着目した研究を行った. ^<197>Au+^<197>Au衝突は,安定核同士の衝突であるが,3:2の中性子陽子比をもつため,アイソスピンの効果が期待される.核子あたりの入射エネルギー150MeVの中心衝突では,圧縮された系が高速で膨張しながら多数のクラスターが生成されるが,圧縮時の高密度領域での中性子陽子比が,高密度での対称エネルギーに強く依存することがわかった.実際,高密度での対称エネルギーが小さいと仮定した場合には,高密度領域で中性子の割合が増し,逆に陽子は早く外側へ押し出される.その結果,膨張している系の外側部分での陽子の割合が増え,そこから高速の^3Heが生成される.この効果は,^3Heと^3Hのエネルギー差という観測量として現れ,対称エネルギーに強く依存することが確認された. 入射エネルギーが100MeV以下での核衝突では,前年度からの研究で,アイソスピン非対称度の高い^<60>Ca+^<60>Ca衝突では,フラグメントの電荷分布やアイソトープ分布のほか,中性子のフローなども非対称核物質の状態方程式を反映することを示した.一方,すでに実験データのある^<58>Fe+^<58>Feと^<58>Ni+^<58>Niの比較の計算も行った.わずかな中性子陽子比の差が観測量に現れるかが問題であるが,二つの系の間のフラグメントの多重度の差は,実験データの傾向をよく再現することがわかった. また,対称エネルギーとともに状態方程式の重要な要素である非圧縮率に関する研究も進めた.硬い状態方程式を与えるGogny力のパラメータを調整し,中間エネルギーでのフラグメント生成では非圧縮率に強く依存する場合があることが示された.
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