本研究は質量数80領域の中性子過剰核における殻構造の振舞を調べることを目的としている。中性子過剰核では、N=50の魔法数をもつ核に於いても殻構造が抑制されているという理論的予測があることから、変形度に関連する物理量である第一励起状態への電気四重極遷移強度を測定することにより、殻構造の振舞を議論する。 対象とする原子核は数秒から数分という短い半減期でβ崩壊する短寿命核であるため、不安定核ビームの形で供給する必要がある。今回は核子当たり66MeVに加速した^<86>Krによる入射核破砕反応を利用したいわゆるイン・フライト法を用いる。この方法による不安定核ビーム生成は質量数30以下の核に対しては確立した方法であるが、より困難であると予想される質量数80の領域に適用した例は少ない。性質の良い二次ビームを生成することは実験を行なう上で非常に重要であるため、本年度は二次ビームの質(強度、純度、運動量の分布の広がりなど)の最適化を行なった。その上で実験を行なう事が可能な核種を選定し、それに基づいて本測定の具体的な設計を行なった。 理化学研究所の加速器施設で今年度行なったテスト実験で、66MeVの^<86>Krビームを0.2pnAの強度で安定して得られた。この条件のビームから生成する事の出来る不安定核ビームの強度及び同位体純度を半経験な生成断面積公式を用いた計算で予測したところ、^<84>Seが最も良質なビームとして得られる事が分かった。運動量アクセプタンスを狭くすることにより、同位体純度を向上を計るなど、生成条件を最適化したところ、純度70%、強度毎秒約10^3個のビームを得られるパラメータを見出した。ビーム強度が強い事、同位体純度が高い事から、クーロン励起実験が可能となり、物理的な議論が明解な電磁遷移強度を用いた議論ができる。現在までに^<84>Seに最適化された実験装置の設計がほぼ終了している。来年度前半に測定を行なう予定である。
|