平成12年度は平成11年度に引き続き、原子核内中間子の質量変化を正確に知るために必要な理論的研究を更に進めた。具体的には以下の点が今年度の実績となる。 以前に議論されていたη及びω中間子に加えて、長年原子核物理学において議論となっていたσ中間子の原子核内での束縛状態生成及びその生成反応について研究を進めている。σ中間子はカイラル対称性の観点からも極めて重要なものであり、その性質を調べることは極めて興味深い。η及びω束縛状態の実験的研究の準備は、我々の理論研究を基に実験の共同研究者によって準備が進められつつある。 さらに、ストレンジネス量子数を持つK中間子が原子核に束縛されたK中間子原子の深い束縛状態の理論的研究を引き続き行った。カイラルユニタリー模型を応用した理論計算により、深く束縛されたK中間子原子の存在可能性を示し、またその生成方法について詳細な検討を加え、この結果については学術論文として出版した。 理論的に得られたK中間子原子の構造は、微視的な模型と現象論的な模型の場合で驚くほど似ているが、いわゆる、原子核内K中間子束縛状態については、これらの予言は食い違っている。この点に関しては、複数の研究者と議論したが結論は出ていない。将来的には何らかの実験により決着がつくものと思われる。
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