蓄積リングには(ビームの軌道を閉じたものにする必要上)双極磁石が点在しており、そのため個々の粒子の運動は不可避的に分散性となる。この運動量分散の存在がビームのレーザー冷却過程に及ぼす影響について、分子動力学法に基づいた数値シミュレーションを行った。その結果、以下のような知見が得られた: 1.クリスタルビームの安定化には"テーパー化された"散逸力が必要不可欠である。単色光による通常のレーザー冷却法によって得られた結晶構造は、冷却力を取り除くと速やかに破壊されてしまう。 2.テーパー散逸力はクリスタルビームの安定化にとってだけでなく、一般的な高温ビームの三次元冷却に際してもきわめて有効である。 また、実際にテーパー散逸力を用意するための具体的方法についても検討した。当初はパルスレーザー光を回折格子により分光してテーパー化するスキームを考えていたが、結局(a).数メートル程度の冷却セクションを通過している間、所定のテーパー率を維持することが困難であること、(b).達成可能な冷却限界温度が一桁程度上がってしまうこと、等の欠点が明らかとなった。そこで、これに代わる新しい冷却スキームとして、"多重レーザー冷却法"を考案した。この方法では、波長の異なる複数のレーザーを空間的に少しずつずらして配置し、一組をビームの進行方向に、もう一組を逆方向から照射して冷却を行う。モンテカルロ計算の結果によれば、ドップラー限界温度は単色光でレーザー冷却を行った場合のそれと同程度になることがわかった。また、分子動力学シミュレーションにより、このスキームを用いて実際にビームの結晶化およびその安定化が可能であることも確認された。
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