昨年までの研究で使用していた分子動力学シミュレーションコードにさらなる改良を加え、実際のレーザー冷却効果をほぼ忠実に再現できるサブルーチンを付加した。この新コードを用いてテーパー散逸力の有効性を再確認した後、(テーパー化を施していない)通常のレーザー冷却力によって、どの程度の平衡温度が実現可能であるかを改めて系統的に研究中である。現在までに得られている予備的な結果は、予想通り、ビーム進行方向とそれに直行する二自由度との間の力学的結合の必要性を示唆している。とりわけ、高温かつ低密度のイオンビームを通常の一次元的なレーザー冷却法で極低温化することは事実上不可能に近いと考えられる。 分子動力学法によるシミュレーションは、荷電粒子間のクーロン相互作用が精度良く考慮されているため信頼性が高く、極低温領域でのビーム特性を調べるためには必要不可欠である。しかしながらその反面、強度の大きいビームを考えた場合、高速のコンピュータを用いてもきわめて長い計算時間を要してしまうという実用上の不便さがある。この点を回避するため、高温・高強度のビームシミュレーション用としてSIMPSONSと呼ばれるPIC(Particle-In-Cell)コードを導入した。その結果、ビーム強度が高くなると、これまでの研究で指摘されていた"クリスタルビームの維持条件"が不十分になり得るという重要な知見が得られた。この知見は分子動力学コードによる長時間シミュレーションによっても徐々にではあるが確認されつつある。 クリスタルビームの維持条件に関連し、高強度ビームの共鳴不安定性の理論的解析も行った。一次元モデルを用いて、共鳴条件や不安定性の増幅率などの解析的表現を得た。
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