単純化した有効理論ではなく、よりゲージ場の理論に基づく形で、温度・密度・曲率等が高い状況での理論の相構造を解明する事を目的に研究を行い、本年度はその第一段階としてゲージ理論の有限温度相構造を明らかにしていった。 具体的には、Schwinger-Dyson方程式を応用することにより、アーベリアンゲージ理論である強結合QEDにおいて、カイラル対称性の破れを表すオーダーパラメータの有限温度中での振る舞いを解析した。適当な時間内での数値解析を可能にするため、はしご近似とInstantaneous Exchange近似を適用し、質量関数の虚部は無視した。オーダーパラメータとしては、フェルミ粒子の質量関数をとり、フェルミ粒子のフレーバー数等を変えながら臨界点と臨界指数を調べた。この結果、アーベリアンゲージ理論においては、有限温度相転移は2次相転移であること、フェルミ粒子はゲージ相互作用を弱め対称性を回復させる寄与を持つこと、フレーバー数依存性は小さいこと、相転移の定性的な振舞いは単純な有効理論である4体フェルミ相互作用模型と類似していることを明らかにした。 強結合QEDにおけるカイラル対称性の破れの有限温度相構造に関する研究はいくつかあるが、上記計算では、新たに波動関数の補正項とゲージ場の有限温度質量補正項の寄与を考慮しており、相構造を詳細に解析することで、フレーバー数依存性についての新たな知見を得た。 得られた成果については、東京都立大学で開催された国際会議、および海外の物理学者が多数参加した'Sapporo Winter School'等で発表し、当該研究に対する理解を広め、モデルの拡張、低次元物性系への応用の可能性等について議論した。上記成果は論文にまとめ、現在、学術雑誌に投稿中である。
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