研究概要 |
ブラックホールの半古典的な法則と熱力学の法則の間には、密接な対応がある。たとえば、ホライズンの面積は決して減少しないため、エントロピーのようにふるまう(ブラックホール・エントロピー)。ブラックホール・エントロピーが、統計力学的な意味でのエントロピーであるならば、微視的状態の縮退度として導出できるはずである。 さて、時空が遠方で3次元反ド・ジッター空間に近づくと、無限遠で2次元共形対称性があらわれる。このことから微視的状態の縮退度を見積もることができ、三次元BTZブラックホール解に対してブラックホール・エントロピーが正しく導出されている(Strominger,1998)。 しかし、この方法は実質的にはBTZ解に帰着する解でのみ確かめられている。また、実際に状態を数えているわけではないので、疑問点も多い。問題点の一つは、無限遠での状態を対象にしている点である。しかし、ブラックホール・エントロピーはホライズンの面積に比例する。このためエントロピーには、ホライズンでの状態が寄与していると信じられている。無限遠の知識で導出できたのは、単に3次元重力の特殊性(伝搬する自由度がない)を反映している可能性がある。 そこで今年度は、この方法を3次元重力に他の場が結合している場合に適用した。このようなモデルでは、BTZ解以外にも遠方で3次元反ド・ジッター空間に近づくブラックホール解が存在しうる。一例として、(11)であげた論文では共形結合をするスカラー場の場合を取り上げた。この論文で、この方法はBTZ解以外でもエントロピーの関数形を正しく導出することが明らかにされた。しかし全体の係数までは正しく導出できなかった。これは、この方法が3次元重力の特殊性に依存していることの現れかもしれない。
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