一次元ハロゲン架橋遷移金属錯体の非線形光学特性及び非線形光学過程を用いた励起準位構造の研究を行っている。ハロゲン架橋金属錯体の中でも非線形光学測定の行われていなかったニッケル錯体について研究を行った。このニッケル錯体は通常の他のハロゲン架橋金属錯体を含め通常の半導体とは異なり、いわゆる反強磁性的な基底状態を持つ強相関電子系である。この物質について電場変調分光法による非線形光学スペクトル測定及びそのスペクトル解析を行った。その結果、ハロゲン架橋ニッケル錯体は従来にない大きな三次光学非線形性を示すことがわかった。その値はピークで10^<-5>esuにも及ぶ。従来の系では非線形感受率の値は光学ギャップにおおよそスケールされるが、ハロゲン架橋ニッケル錯体はこのスケール則から大きくはずれ、約3桁も大きな値を示すことが明らかになった。この原因の一つとして、励起状態間の振動子強度が大きいことが挙げられる。3次非線形過程では、基底状態から一光子励起遷移許容状態への振動子強度の他に、励起状態間の遷移双極子モーメントが効く。この励起状態間の振動子強度が従来の一次元系に比べ3倍程度大きい。これは非線形感受率を1桁程度大きくすることに当たる。次に非線形感受率を大きくしている要因は励起状態同士のエネルギーが近接していることである。このため共鳴が多重共鳴に近い状態になり非線形感受率を大きくしている。これら二つの要因はいずれも電荷移動型の強相関電子系に共通する特徴と考えられるため、現在は、低次元遷移金属酸化物に研究対象物質を広げ研究を行っており、強相関電子系の巨大非線形光学応答の起源と特徴についてより深い知見を得る予定である。
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