当研究の初年度(平成11年度)において、ハロゲン架橋ニッケル錯体が巨大非線形光学効果を示すことを明らかにした。この効果はハロゲン架橋ニッケル錯体ばかりか、同じ強相関一次元電子系に属する一次元銅酸化物についても同様であることを明らかにした。従来、低次元系の非線形光学効果についての研究は、主に共役系高分子や通常の半導体が対象となってきたのに対し、これまで光学材料として注目されてこなかったこれらの物質群が非線形光学材料として注目に値することをあきらかにしたという観点から、画期的な発見であった。 この初年度の発見に用いた実験手法は、電場変調分光法という方法で、静電場を印加時の非線形光学効果を測定する方法である。しかし、本来の非線形光学特性の評価という観点からは、電場変調法で得られた巨大な光学非線形性が、光の周波数領域においても確かに実現していることを、確認したい。そこで、本年度(平成12年度)は、直接的に光学非線形を測定する第三高調波発生法(THG)により、非線形光学スペクトルの測定を行い、これらの物質の光学非線形性の評価を行った。 THG法によって評価を行うためには、良質の薄膜が必要となる。従来、薄膜のTHG測定は石英基板上の試料によるものがほとんどであったが、一次元銅酸化物は薄膜形成の可能な基板が限定される。結果的にはアルミネート基板を用いることで良質な配向単結晶薄膜が得られた。このアルミネート基板の線形及び非線形光学特性を評価し、非線形光学材料の基板としてふさわしいことを明らかにした。得られた一次元銅酸化物薄膜についてTHGスペクトルを測定した。その結果10^<-9>〜10^<-10>esuという大きな非線形感受率が得られた。またそのスペクトル形状は、電場変調分光によって得られたものと矛盾ないものであり、これらの物質群における巨大非線形光学効果が、「ほとんど縮退した励起準位間の大きな遷移双極子モーメント」によるものであることが確証づけられた。
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