本研究は私たちの研究グループがはじめて報告し、最近特に注目されているイオン注入法によるシリコンナノクラスターの二酸化シリコン中での形成とその物性、特に発光特性、さらにはその微細構造との相関を中心とした。以下で本研究で実施した内容を記載する。 1.シリコンナノクラスターの構造の均一化:注入時の基板温度を厳密に制御し、さらに加速エネルギーを変化させ(6段階)シリコンを多重注入することにより注入イオンが深さ方向に対して近似的に方形的な分布を持つ試料を作製した。注入後の試料のRBS測定、断面TEM観察の結果、過剰シリコンが試料内に均一に分布し、シリコンナノクラスターが熱処理後形成されることがわかった。さらに、この手法によりシリコンナノクラスターの「サイズ」と「クラスター密度(クラスター間の距離)」を独立に制御することが可能であることがわかった。 2.シリコンナノクラスターの発光機構の本質的な解明:発光のイオン注入量、注入後の熱処理時間、励起波長依存性、酸化効果、さらにはそれらと注入層の微細構造の相関を詳細に調べた。その結果、発光のピークエネルギーは熱処理時間、励起波長には依存せず、高濃度注入時に注入量に強く依存することがわかった。また、シリコンの酸化に伴い発光のピークエネルギーが高エネルギー側にシフトすることもわかった。これらの結果から励起光がシリコンナノクラスターにより吸収され、発光は界面の部位で起こり、さらにそのエネルギー準位はクラスター間の相互作用、界面の酸化状態により強く影響を受けるとする新たな発光のモデル(Interactive Nanocluster Model)を提唱した。 3.光電子機能デバイス開発へのアプローチ:上記の研究結果を総合的に整理し、それらに基づきシリコンナノクラスターの実用的なデバイスを開発する上で重要な問題となる発光効率の向上の方法、発光波長の連続可変性などを詳細に検討した。前者は水素をイオン注入することにより、また、後者はクラスター密度、酸化状態を変化させることにより可能であることがわかった。さらにエルビウムなどの希土類元素をシリコンナノクラスターにイオン注入によりドープすることにより光通信分野で重要な高輝度安定赤外発光が効率良く観測されることがわかった。
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