本研究ではこれまで光誘起相転移に対し報告例がない無機結晶系の誘電体、強誘電体に注目し光誘起相転移物質として優れた物質を探索し、測定された光誘起相転移現象に対して超短パルスレーザーを駆使した時間分解分光法を用いて光誘起相転移の動的機構を解明することを目的とする。11年度では水素結合系結晶KD_3(SeO_3)_2(DKTS)とLiH_3(SeO_3)_2(LTS)、酸化物であるチタン酸バリウム、また強誘電体で古くから知られているロッシェル塩の4物質に注目した。この四物質の中で特にDKTS結晶が示す強弾性相転移において顕著な光誘起効果が測定された。本実験では再生増幅フェムト秒パルスTi:Sレーザーを用いてTHG光を発生させ、波長266nm、パルス幅130fs、4μJのパルス光を励起光として用い、屈折光強度をプローブとして相転移の光誘起効果を調べた。光を照射しない場合とcw光励起を行った場合では転移点が約0.1Kシフトする他は顕著な違いは見られない。それに対しパルス光励起の結果は著しい光誘起相転移現象を示し、特に転移点直上の温度領域で光誘起効果が顕著になる。本実験結果によりパルス光照射によって強弾性相転移のドメイン初期形成過程において強い光誘起効果が現れることが明らかとなった。この様な光誘起相転移現象の実験例は世界的にも初めてであり、本結果はこれまで不明確であった相転移点近傍で現れるドメイン初期形成過程の機構解明に重要な知見を与える。(本研究結果は日本物理学会1999年秋の分科会(27aYJ-10)、また詳細な実験結果を日本物理学会2000年春の分科会(22aX-9)にて発表。)またLTS結晶については光誘起相転移現象を調べるために融点近傍において熱誘起で現れる前駆融解現象に注目し基礎データを実験的に収集した。(本結果については原著論文J.Phys.Soc.Jpn:69巻2000年頁643-646にて出版公表。)
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