本年度は光誘起相転移物質として優れた物性を示す無機・有機結晶の物質探索をおこない光誘起相転移機構の解明をおこなうことを目的とし引き続き研究を遂行した。本研究では強誘電強弾性相転移を示すロッシェル塩(RS)と前年度顕著な光誘起効果を報告した常誘電強弾性相転移を示す水素結合系結晶KD_3(SeO_3)_2(DKTS)の二つの物質に注目し、UVフェムト秒パルスレーザーを励起光として照射することにより転移点近傍で現れる光誘起効果の物理的機構を解明した。両物質は対称中心の有無という点で大きく異なり、(DKTSには対称中心があるがRSにはない。)この対称性に起因した電気光学効果の相違からそれぞれの相転移において異なる光誘起効果の観測が期待される。 レーザー屈折光強度測定によりそれぞれの特徴的な光誘起効果が測定された。まずDKTSの屈折光強度の温度依存性はUV光励起をおこなうことによりTc以上の温度領域で屈折光強度の減衰が温度上昇に対し著しく小さくなるのに反してRSではTc以下で大きな屈折光強度の減少が測定される。DKTSに関する結果は光照射によりTc以上の温度領域に於いても強弾性ドメインが誘起されていることを示す。一方、RSでは光照射によりTc以下でドメイン壁が減少することを示す。さらにDKTSの屈折光強度の温度依存性には光照射による顕著なメモリー効果が測定された。以上の結果を考慮しバンド輸送モデルの立場から測定された光誘起効果を考察すると、強弾性ドメインもしくは強誘電性ドメインが形成された結晶中へUV光照射をおこなうことで励起電荷に起因した空間電場が形成され電歪効果を介してドメインが光誘起されると考察される。以上のことから本研究により強弾性ドメインや強誘電性ドメインを光制御できる可能性を示唆する点で極めて重要であり基礎物理学と応用物理学の両面で重要な知見を与えるものである。
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