研究課題
微小磁性体における磁化の量子トンネリング現象が関心を集めている。本研究の目的は、ナノスケール磁性体であるマンガン高スピンクラスターの磁化トンネリングの機構を極低温の物性測定により解明することにある。研究の最終年度にあたる本年は、磁場下でのトンネリング挙動を解明するため、ファラデー型磁化測定装置を新たに開発し、マンガン4核クラスターに対して磁気測定、比熱測定を行った。磁場下での共鳴トンネリング、およびクラスター間相互作用による反強磁性転移などの諸現象を発見することができた。試料は、Hendrickson教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校、USA)らのグループにより提供されたMn4hpdmとMn4Brと呼ばれる2種のマンガン4核クラスターである。両者の構造は良く似ているが、Mn4Brでは、配位子に臭素イオンが結合し、結晶中での各クラスター間の相互作用が強まっていることが予想される。Mn4hpdmの磁化曲線を測定したところ、約2.5k0eの磁場で、磁化曲線にステップが見られ、磁化の反転が促進されていることがわかった。これは、高磁場ESRなどの測定結果などと合わせて考えて、共鳴磁化量子トンネリングによるものだと結論した。一方、Mn4Brの磁化では、温度依存性に特徴的な振舞いが観測され、比熱測定の結果から、1.5Kで反強磁性転移が生じていると結論できた。マンガンクラスターで転移が報告されている例は、今のところないので、転移機構の解明は重要で、今後関心を集めていくものと考えている。以上の成果は、Mn4hpdmの詳細な報告がアメリカ化学会の雑誌Inorg.Chem.に掲載された。また、Mn4Brの結果については、日本物理学会年会において口頭発表した。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)