研究概要 |
今までに我々が層状化合物SrCu_2(BO_3)_2の粉末試料を用いて行った物性研究によりこの物質が厳密な基底状態をもつ二次元スピンギャップ系であること,磁化曲線には飽和磁化の1/8,1/4の位置に量子化されたプラトーが出現することが解っていた. 今年度の成果として最も特筆すべきことはSrCu_2(BO_3)_2の大型単結晶育成に初めて成功したことである.我々は,LiBO_2を融剤としたTSFZ法により直径6mm長さ4cm以上もの大きさの単結晶を得ることに成功した.得られた単結晶が良質であることは帯磁率,ラウエ写真,ICPなどの解析から明らかとなった.これにより,帯磁率や磁化測定などの結果をより詳細に議論することが可能になったばかりではなく,中性子散乱のQ依存性,ラマン散乱などの単結晶が不可欠な物性測定も可能となった.これらの物性測定の結果,以下述べるような幾つかの画期的な結果を得ることができた. まず中性子散乱によるとトリプレット一個の励起は殆ど分散がない,すなわちトリプレットが殆ど局在している証拠が得られた.これはダイマーの直交性により6次摂動で初めてトリプレットがホッピングすることができるという宮原,上田の理論計算の結果を証明したものである.トリプレット励起の局在を示唆する実験結果は,ラマン散乱,ESRからも得られている.またトリプレット二個の励起は一個の場合に比べて分散が大きく,動きやすいという興味深い結果も得られた. また今までは45Tまでの磁化測定であったが,今回60Tまで磁場をかけることによって新たに1/3プラトーを発見した.理論的にこのプラトーはストライプ構造をもつといわれているが,マンガン酸化物や高温超伝導体の研究で発現するストライプ構造との関連性からも現在興味がもたれている.
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