研究概要 |
本年度はカーボンナノチューブの輸送現象に対する電子相関の効果を中心に研究を行った.カーボンナノチューブではクローン相互作用を遮蔽する電子が存在しないため,長距離相互作用を考慮しなければならない.その効果によって,不純物散乱による電気抵抗は相互作用がない場合に比べ増加する.また電子波の局在が効かないような温度領域では,電気抵抗は相互作用を無視した場合には温度によらず一定であるが,相互作用によって温度の減少に伴い巾的に増加することを示した.これらの現象は電子間相互作用によって電荷揺らぎが抑制されることに起因している.さらに低温の局在領域では谷内後方散乱と谷間後方散乱とは共存できないことを見出した.光学伝導度に関しては,その周波数依存性が相互作用によって影響を受け,高周波数領域では相互作用を無視した場合のω^<-2>に比べ,速く減衰することを示した.また,擬一次元有機導体に関する知見を得るため,1/4充填一次元電子系に関して研究を行った.まず,格子内斥力Uだけを持つモデルに対して繰り込み群を適用し二量体化と交替ポテンシャルによる電荷ギャップの解析的な標式を導いた.その結果を用いて,(TMTSF)_2X,(TMTTF)_2X(Xは一価のアニオン),及び[(TMTSF)_<1-x>(TMTTF)_x]ReO_4の電荷ギャップを議論した.さらに,Uと最近接格子間斥力Vを持つ1/4充填一次元電子系のU-V平面での相図を繰り込み群を用いて決定し,数値的対角化と定性的に一致する結果を得た.この系ではUとVが共に大きい領域で絶縁体状態が現れる.この絶縁体領域では,2k_F-スピン密度波の揺らぎと共存する4k_F-電荷秩序(k_Fはフェルミ波数)が実現されることを示した.ここで得られた2k_F-スピン密度波の揺らぎは3次元性により秩序となる.したがって,電荷秩序の特徴的な温度はスピン秩序の特徴的な温度よりも大きいことが期待できる.以上の結果は(DI-DCNQI)_2Agで観測されている電荷整列と磁気秩序の共存を定性的に証明する.
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