本年度はカーボンナノチューブや一次元有機導体を対象にして以下のような一次元電子系の研究を行った。 ●カーボンナノチューブ カーボンナノチューブにみられる二種類の金属状態、即ちゼロ磁場で実現される金属状態(二つの谷を持つ)と半導体カ-ボンナノチューブに軸に平行な磁場を印加することによって実現される金属状態(一つの谷を持つ)の電気抵抗と光学伝導度をボルン近似を用いて計算し、電子間長距離クーロン相互作用の効果の違いを議論した。その結果、二種類の金属状態とも電子間相互作用は電気抵抗の非整数巾的な温度依存性をもたらすが、その効果は谷が一つの状態の方が強いという結果を得た。また、光学伝導度に関しては、低振動数領域、高振動数領域の両方で二種類の金属状態とも電子間相互作用により非整数巾の振動数依存性がみられるが、その効果は谷が一つの状態の方が強いことを示した。このように、電子間相互作用の効果は谷が一つの金属状態で強く現れることが判った。また、カーボンナノチューブの振動子強度をタイトバインディング模型を用いて計算した。そして、いくつかの普遍的な関係式を導き、カーボンナノチューブへの電子もしくはホールのドープ量を決定するための有用な式を得た。 ●一次元有機導体 昨年度の研究を拡張して、ボソン化法にくりこみ群を援用し、格子内斥力U、最近接格子間斥力V_1、次近接格子間斥力V_2をもつ1/4充填一次元電子系の電子状態の研究を行なった。そして、基底状態の相図を決定し、それからの低エネルギー励起に関して様々な知見を得た。本研究中で、スピン励起にギャップを持つ状態が、V_1の大きさによらずU<2V_2で実現するを示した。この状態は従来の平均場近似による研究で得られていなかったものであり、本研究で完全に取り入れられている量子揺らぎが本質的な役割を果たすことによって実現した状態であると考えられる。
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