ガラス的物質群の理解を目指して理論的研究を展開しているが、今年度は特にランダム強相関電子系で金属スピングラス状態が可能であることをミクロなモデルに基づいて示した。金属スピングラスはドープした半導体や高温超伝導体および重い電子系の合金にランダムネスが導入された物質などのランダム強相関電子系において実験的に見出され興味が持たれているが、これまでの理論は現象論の段階であった。最近、スピングラスの平均場理論を金属に拡張し、ミクロなモデルを解いて金属スピングラス状態を得ようとする試みが始まったが、まだうまくいっていない。この理論の現状はランダムネスがない場合のモット転移の理論と比較すると、インコヒーレントな寄与のみを考慮したハバード近似のレベルである。よって得られる状態は絶縁体となっている。モット転移の場合に金属状態を特徴づけるのはグッツヴィラー近似で記述可能であるようなコヒーレントな寄与であり、コヒーレントとインコヒーレントな寄与の両方を統一的にあつかうことは動的平均場近似を用いれば可能であった。そこで、我々は、モット転移の理論をつくるために有効であった動的平均場近似を用い、スピングラスの平均場理論との統合理論をつくった。ミクロなモデルに基づいたこの理論の解は金属絶縁体転移を示し、ランダムネスが小さい領域では金属スピングラス状態を与えた。我々の目標はゆらぎの解析にあるので、この平均場解を出発点にして次年度は金属絶縁体転移にともなうゆらぎの解析を行う予定である。
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