研究概要 |
フェリ磁性体には,gaplessモードの他に,励起にギャップを伴うもう1つの素励起モードが存在し,これらはそれぞれ強磁性的・反強磁性的性質を帯びている.低温域ではgapless励起モードを反映して強磁性的性質を発揮し,中温域ではもう1つのgapped励起モードを反映して反強磁性的な挙動を示し,そして高温域では常磁性体に移行する.フェリ磁性の融合磁性という新しい捕らえ方,これこそが本研究の動機であり,この考え方を理論・実験のフィードバックを繰り返すことにより定量化し,強磁性的側面を有効的に抽出する有機分子フェリ磁石へとつなげてゆくことが,本研究の究極目標であった. この趣旨に沿って研究は順調に滑り出し,本年度半ばにおいて大きな発展を見せた.それは,複核金属フェリ磁性鎖の核磁気共鳴実験の解釈に乗り出したことである.フェリ磁性体の理論研究は近年活発化しており,その静的性質に関しては,かなりよくわかってきているが,動的性質の解明については,理論・実験共に,ほとんど手付かずの状態である.そうした中でエポックとなる実験が行われ,これに触発され,スピン波理論に基づく核スピン緩和率の計算を行った.実験結果はよく再現され,特に,緩和率のユニークな磁場依存性が,フェリ磁性体特有の波数2次分散関係の観測になっていることが,示された. 現在,緩和率のさらなる理論計算を進めており,3月初旬の分子科学研究所研究会,3月下旬の日本物理学会で発表予定である.特に前者では,合成化学の専門家の参加が多数期待され,そこにおいて問題の論点をアピールし,広範な新フェリ物質合成を促すことが,今後のステップにおける重要な鍵になるものと認識している.2年度目においては,アピーリングな理論計算を通して,より広範に,合成化学者・実験物理学者のトピックスヘの参画を促し,実験サイドからの大きなフィードバックの流れを作りたいと考えている.特に,交換相互作用定数が大きく,有効的低温研究に有用と思われる,金属イオン・有機ラジカルから成るフェリ磁性鎖の合成を呼びかけたい.
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