研究概要 |
平成11年度における研究では、少数キャリアー希土類物質のf電子状態を偏極中性子散乱実験により明らかにし、また高圧力・磁場中における中性子散乱用の高圧発生装置の開発を行った。 Yb_4As_3は290K以下で電荷秩序状態(菱面体晶)をとる。Yb^<3+>が菱面体構造の主軸方向に並んだYb_Iサイトを占めて磁気的一次元鎖を形成し、非磁性Yb^<2+>がそれ以外のYb_<II>サイトを占めることが、それぞれのサイトでの磁場誘起モーメント、μ_I,μ_<II>を偏極中性子回折で測定して明らかとなった。これは中性子非弾性散乱で発見されたS=1/2一次元Heisenberg反強磁性の磁気励起と整合する。しかし磁場が一次元鎖に垂直であるとき約10K以下でμ_Iが増加し、単なる一次元磁性ではない現象が見られた。一方、磁場を一次元鎖に平行とした条件での実験ではμ_Iが約15Kで極大を示すが低温ではほとんど増加せず、一次元Heisenberg反強磁性の磁化率が現れている。この結果は、磁場が一次元鎖に垂直の時に最も強く誘起される交替磁場によって磁化率が増加することを示した理論(M.Oshikawa et al.:JPSJ68(1999)3181.)の微視的裏付けである。またμ_<II>はμ_Iの数%程度だけ存在することも分かり、磁気的に孤立したYb^<3+>が一時元鎖外のYb_<II>サイトあたり約10^<-3>個あると考えられる。このわずかな鎖外の磁気イオン数は希薄なキャリアー数と近く、これまでまだ明確になっていない電気伝導の機構を調べるきっかけとなると期待される。 さらに少数キャリアー系の偏極中性子散乱を進めるために圧力下での実験が可能な装置の開発に着手した。試料高圧容器を強磁場冷凍機に合わせて設計し、加圧試験(約1GPa)を開始した。
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