前年度の研究に引き続き幅広くホール濃度を変化させたペロブスカイト型マンガン酸化物結晶を作製しその電荷ダイナミクスをホール測定により調べた。さらに前年度に見出した3dx2-y2の動的な軌道整列に起因する大きな異方性を示す層状反強磁性ペロブスカイトマンガン酸化物の軌道整列安定性を、パルス強磁場の印加によってその磁化過程を測定し、検討した。また、本系を母物質としたバンド幅変化による物性変化についても調べた。その結果以下の基礎物性が明らかになった。 1.低ホール濃度領域の基底状態におけるキャリアーの振る舞いは、正常ホール係数の値から、正孔的であり、正孔濃度は仕込み組成によらずほぼ一定の値をとり、またホール係数の温度依存性は殆ど無いことがわかった。さらに、低温から強磁性転移温度に向かって増大する異常ホール効果が観測され、その大きさはスピンの秩序変数である磁化および還元温度のベキ乗則にしたがっていることが明らかとなった。 2.高ホール濃度領域で金属絶縁体相境界を見出した。この相境界では異なる結晶構造を持つ金属相、絶縁体相の2相共存状態が観測された。また従来のマンガン酸化物では見られなかった正の巨大磁気抵抗効果を発見した。 3.安定な軌道・磁気秩序状態を持つ層状反強磁性マンガン酸化物試料がどのような磁化過程で飽和磁化まで達するか、45Tまでのパルス強磁場を用いて調べた。超強磁場の印加によって反強磁性異方的金属相はメタ磁性転移を起こし強磁性等方的金属相に相変化させることができることが明らかとなった。この結果は磁場-温度平面上の相図として纏めた。さらにバンド幅の減少に伴い反強磁性異方的金属相から反強磁性絶縁体相へ転移が観測された。また、金属-絶縁体相境界ぎりぎりの絶縁体組成の試料に磁場を印加することによって(キャント反強磁性)金属相に転移させることができた。
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