本年度は、量子開放系における非平衡ダイナミクスの研究として、「量子機械」の理論的構築、およびその基本的な性質に関する計算物理学的な研究を行った。量子機械とは少数自由度を持つ量子系であり、熱的環境と相互作用をしながら、外界からエネルギーを受け取り、その非平衡状態においてある種の機能を発揮する系の総称である。そのような系を考えることにより、量子開放系における非平衡ダイナミクスの本質を研究した。 さらに量子機械の機械としての性能を考える上では、熱力学的な性質が重要になる。これを踏まえ、量子系の非平衡過程における熱力学量の間に成立する等式を、古典系に対するJarzynski等式を拡張して導出した。さらに、非平衡過程において、熱浴および外場とのエネルギーのやり取りを量子力学的に定義し、エントロピー的な熱の変化、内部エネルギーの変化、仕事の変化分、さらに非平衡過程に付随する過剰なエネルギー生成分などの表式を導出し、それらの間の関係を議論した。これらの結果により、量子開放系における非平衡ダイナミクスの基本的な性質の一部が明らかになりつつある。
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