(1)まず初めに時間依存性のない量子トンネル現象についてのレビューを行った。時に、波動関数の確率的解釈によってトンネル現象がどのように物理的に理解できるのか、また波動関数の位相にはどのような意味があるのか、その波動関数が重ね合わされ、千渉を起こすことによって、どのようにトンネル現象が記述されるのかに注意を払った。 (2)次に、科研費補助金によって導入可能となったUNIXをOSとする計算機環境の整備を行った。具体的には、数値計算以前の基本的なソフトウェアのインストール、数値解析用のソフトウェアのインストール、各種サブルーチンの開発及びそのテストなどを行った。本研究機関では大規模な数値計算を行う計算機環境が整っていなかったため、これらの整備作業に当初の予定よりも時間を要した。しかし、科研費補助金のおかげでこれ以降数値計算による各種シミュレーションが行える環境ができることとなった。従って、この作業に要した時間は必要な初期投資であったと考えている。 (3)時間依存性のあるトンネル現象ではそのトンネル確率の指数関数的依存性のために安易な数値解析はできない。そのため、まず確実な理解の基盤を築くために、初歩的な2状態系の数値解析から行った。まず、時間依存性を持たないハミルトニアンによるポテンシャル障壁の通過による波動関数の変化を追跡することから始めた。次に、微小な振動外場を加え、そのトンネル現象がどのように変わっていくかを調べた。特に、エネルギー差が外場の振動数に等しい場合に現れる共鳴現象に注目し、その様子を詳しく調べた。 (4)現在のところは、まだ結果の公表は行っていないが、最終年度となる来年度の結果公表にむけて、現在得られている結果をまとめ、考察を加えている。また、2状態系からさらに多状態系へ考察の対象を広げ、より現実的な物理現象の理解をめざし、さらに数値解析的な考察、および理論的考察を行っている。 (5)来年度は、本年の研究をさらに一般的なものにするために、離散状態系の考察から、連続状態系の考察へと考察の幅を広げていきたい。
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