研究概要 |
低速の多価イオンを微細キャピラリー金属膜標的に照射すると、電子が選択的に高い励起状態へ捕獲された中空原子またはリュードベリイオンを、1%程度の高確率で真空中に引き出すことができる。これを可視光分光ならびに価数分析することによって金属表面上空での電子捕獲過程を調べることを主眼とした。 分光実験は6〜11価のアルゴンイオンを用い、回折格子で分散した230〜850nmの波長範囲の光をCCDを用いて0.04nmの高分解能で検出した。その結果、一電子捕獲について、主量子数nが入射価数qに対してq-1≦n≦q+3なる準位からのΔn=-1の脱励起光子を全て、水素様モデルで計算される波長に観測することができた。高分解能での角運動量分解測定では、興味深いことに8価入射を除いてはYrast準位およびその隣(n=1-1,1-2)のスペクトルしか観測されず、高角運動量状態が選択的に占有されていることが判明した。 さて、これらスペクトルを膜透過後の飛行距離を変えて観測することにより高励起準位の寿命を測定することができる。異なる準位からの発光の時間分解データを、レート方程式の解を用いて同時にフィッティングを行うことによって、電子捕獲寺の占有数分布を求め、電子がn〜q+1のYrast状態を中心にΔn〜±1程度の範囲の準位に捕獲されているという結論を導いた。これは従来から支持されている古典的オーバーバリアモデルを初めて直接的に確証づけるものであり、微細キャピラリーを用いた実験の優位性を示すものである。 なお、出射イオンの価数分析測定も行ったが、定性的には捕獲後のオージェ遷移を考慮したTokeciらの計算と一致したものの、定量的な不整合は実験条件の見直しを要し、今後の課題となる。
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