本研究では、今年度SH問題のプログラムを新しい計算機システムに移植し、P-SV問題への拡張の準備とし、以下の成果を得た。断層破砕帯を断層面に平行な亀裂が非常に密に分布する領域としてモデル化し、そこに平面波が入射した時の理論波形を計算し、反射係数の波数依存性について考察を行った。 断層破砕帯に垂直に平面波が入射した時、破砕帯の手前では破砕帯からの反射波が、破砕帯の向こう側では直達波の到達に遅れが見られた。また、長波長の波が入射した場合には散乱波がほとんど見られなかったが、入射波の半波長が亀裂長より短くなると、散乱波が効果的に発生し、波形は観測点間で複雑に変化した。亀裂が分布する断層破砕帯からの反射波の反射係数と、直達波の時間遅れから見積もられた速度を持つ単純な低速度層としての断層破砕帯の反射係数を比較すると、両者はよく一致していて、周期的にピークを持つ。この波数依存性は、観測から得られた中部地殻のS波反射面の反射係数の周波数依存性の特徴をよく表していた。したがって、各地で発見されているS波反射面も実際は1枚の層ではなく、密分布する亀裂群から成り立っているかもしれない。 一方、斜め入射の場合には直達波の時間遅れはほとんどなく、亀裂分布の場合と直達波の時間遅れから見積もられた速度を持つ単純な低速度層の場合の反射係数は一致せず、亀裂分布の方がはるかに大振幅の反射波を発生させた。これは、亀裂分布のような強い異方性をもつ媒質では、初動は早く伝わる方向に回り込んで行くため、初動走時はほとんど遅れないのに対して、実際は亀裂分布によって速度が低下しているため、反射波は励起されると考えられる。これから、亀裂分布のような強い異方性帯は、例えば初動走時を用いたトモグラフィー法で見つけるのは難しく、反射波によってのみ検出可能であることが示唆される。
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