研究概要 |
温室効果気体の循環解明のため、対流圏を対象とした3次元大気輸送モデルを開発し、温室効果気体の一種であるメタンについて数値実験を行った。 開発した3次元大気輸送モデルは、対流圏を対象領域としており、空間解像度は、水平2.5°×2.5°、鉛直14レベル(σ座標)である。モデルに入力する気象データとして、ECMWF客観解析データを用いた。移流計算にはセミラグランジュ法を用いている。Cumulus convection はTiedtke(1989)、Grell(1993)によるパラメタリゼーションにより導入した。Planetary boundary layerの高度は、GSFC DAO reanalysisデータから得られる月平均値を使用した(Maksyutov and Inoue,1999)。クリプトン85、ラドン222、化石燃料起源の二酸化炭素をトレーサーとして数値実験を行い、観測結果や他の数値モデルの結果と比較することにより、開発したモデルの輸送場の妥当性を確認した。 大気中のメタン濃度について、既存の放出シナリオ(Fung et al.,1991)を用いた数値実験を行った。消滅源はOHラジカルとの反応を考慮し、OHラジカル濃度場はSpivakovsky et al.(1991)による結果を用いた。計算結果では、地表面付近のメタン濃度は、南半球で低く、北半球中高緯度で高濃度となる南北勾配を示した。陸上では、湿地、水田、バイオマスバーニング等からの強いメタン放出を反映して濃度の高い領域が存在し、特に北半球では濃度の不均一が顕著である。南半球の濃度は緯度経度方向共に、陸上の一部を除いて、ほぼ一様であった。数値実験により得られた南北濃度勾配は約150ppbvであり、観測結果から得られている勾配とおよそ一値する。しかし、経度平均した値は、南北両半球の中低緯度で観測結果よりも高濃度となっており、内陸部のメタン放出源の影響が、孤島や大陸海岸付近での観測では捕らえられないことを示唆している。
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