温室効果気体の一種であるメタンの循環解明のため、前年度までに開発した3次元大気輸送モデルを用いて、メタン濃度と炭素の安定同位体及び放射性同位体の数値実験を行った。メタンの全球放出量を575Tg/yrとし、各放出源の放出量及び同位体組成についての放出シナリオを作成した。放射性同位体については原子炉からの放出を考慮した。メタンの消滅源は土壌吸収及びOHラジカルとの反応と各々の過程における同位体分別効果を設定した。 数種類の収支シナリオを用いて数値実験を行った結果、濃度と同位体組成は、放出源・消滅源の変化と大気輸送の影響によりそれぞれ特徴的な分布を示し、濃度と共に安定同位体と放射性同位体を利用することにより、濃度のみからでは得られない放出・消滅源に関する情報が得られることが示された。 南北勾配の年平均濃度は計算結果では約150ppbvであり、NOAA/CMDLや東北大学による全球規模の観測結果と良い一致を示した。安定同位体比の緯度分布もQuayらによる観測による0.5per-milにほぼ一致した。しかし、放出源が多く存在する内陸における計算値は、大陸縁辺や海洋上の結果との差が大きく、経度方向の大きな不均一が見られ、主として大陸縁辺や海洋上で行われている従来の観測に加え、内陸での観測の重要性が示唆された。夏季の地表面付近の結果では、メタン濃度の高い領域が、シベリア、カナダ高緯度帯に出現し、安定同位体比が低いことから、微生物起源のメタンの影響が強いことが分かった。また、赤道域の南アメリカ、南アフリカ、東南アジアでは、濃度、安定同位体比が周辺に比較して高い領域があり、放射性同位体では差が大きくないことから、非微生物起源のメタンのうち特にバイオマス燃焼によるメタン放出が強いと考えられる。カスピ海西岸、ペルシア湾岸、北アメリカ五大湖南岸域では、濃度、安定同位体比が高く、放射性同位体が低くなっており、化石燃料起源のメタンが多く含まれると思われる。
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