本研究は、申請者がこれまで開発してきた氷床3次元力学モデルと東大気候システム研究センターの大循環モデルを組み合わせて、第四紀遷移のような氷期間氷期サイクルの周期の変調の起こる機構を明らかにしようとするものである。 初年度の平成11年度は、次のような研究成果が得られた。 (1)モデルの開発・改良:大循環モデルも氷床力学モデルもこれまで開発を行ってきたものだが、以下の点について調査、改良をおこなった。 (a)氷床力学3次元モデルの座標系の変更。これまで南極など極点付近での使用を前提としていたため直角座標系だったが、極座標系にすることで中緯度まで計算するのが可能になった。またコードの高速化などをてがけたので、12年度の数値計算の効率が大きく高まることが期待される。 (b) 氷床モデルの入力を、氷床表面での融解・降雪などの収支から温度、降水量などに変更。氷床表面での諸過程を考慮した熱・水収支に基づく方法を採用し、氷床表面モデルとして、大気大循環モデルの出力と氷床力学モデルの入力を仲介するインターフェース部分と位置づけた。具体的には大気大循環モデルを高解像度(緯度、経度約1度程度)の数値実験を行い、現実のグリーンランドなどの既存の氷床の質量収支がよく再現できるための工夫(高度の補正、融解水の再凍結過程の導入)を行い、改良の効果をデータによって検証した。 (2)数値実験:大気側についてはこれまでに行った大循環モデルによる数値実験(2万年前の最終氷期実験)をさらに高分解でおこない、2万年前の最終氷期以降に関する古環境データ(地形分布や海面水準データなど)との比較を行った。氷期の氷床の質量収支が正に転じており、氷床の存在の証拠と調和的であることが定量的に示された。平成12年度はいよいよ大気と氷床の両者の結合を行う。
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