大気/表層過程と氷床流動過程の間で重要となる相互作用過程はおもに4つほどある。1つはローカルな高度/質量収支フィードバックといわれるもので、氷床が高くなると大気の気温減率に影響され、寒いところに存在する氷床面積が広がり氷床がますます融けにくくなる。また、雪氷過程では重要となるice albedo feedbackがある。さらに大気大循環過程を経るものとして、氷床地形(厚さ数千m級)や冷源によって惑星(定在)波が変調されて気温の空間分布が変調されるstationary wave/temperature feedbackや、氷床地形によってstorm trackの位置さらに降水帯が氷床南縁に極在化して氷床かん養をたすけるtransient eddy feedbackが考えられている。この第三および第四の大気大循環を経たフィードバック過程は、大気線形モデルや大気大循環モデルによってその重要性は指摘されてきたものの、他のフィードバック過程と比較して定量的にどれほど氷床形状をかえるほどのものであるかの評価をした研究はなかった。それは大気大循環モデルと氷床流動モデルとを組みあわせた研究がこれまでほとんど存在しなかったためである。われわれのグループでは、大循環モデルおよび氷床流動モデルの開発およびそれによる数値実験にとりくみ、大気大循環モデルで気候変化のアノマリを氷床モデルへの入力とすることに成功し、氷床が大気に与える影響と大気が氷床に与える影響の両側面を調べることができ、北半球氷床の発生、維持に大気大循環の果たす役割が大きいことを示した。また、求められた形状を大気大循環モデルの境界条件として計算をくり返せば、時間発展問題として氷床と気候の変化を求めることができる。現在の南極/グリーンランドのみならず第四紀に起こった全地球規模の氷床の成長/維持/後退過程を扱う方法を確立できた。
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