振り分け潮の構造と時間変動について検討するため、紀伊半島南西岸海域において、1999年5月11日〜14日および同年10月19日〜22日の2回に三重大学練習船勢水丸に乗船し、ADCPによる潮流観測とXBTを用いた水温分布の計測を行った。またこの調査は1997年から継続して行われており、過去4回にわたり実施された観測のデータもあわせて解析した。 成果は以下のように要約できる。 黒潮が直進路をとり潮岬に接岸した状態では、振り分け潮は常に出現し、その構造は時間的にも空間的にも非常に安定していることがわかった。しかし潮が分かれる振り分け地点自体は、時刻によってかなり移動し、その傾向に規則性は認められなかった。これら振り分け潮の時間変動と潮汐周期との間には対応関係が見いだせず、潮流の影響はほとんど無いと推察された。振り分け潮の特性は水温分布にも顕著に現れ、振り分け発生時には黒潮系水と思われる舌状の暖水が岸に沿うよう北西方向に伸びていた。このことから振り分け潮によって黒潮系水が沿岸海域のかなり北方まで輸送されていることが判明した。 いっぽう黒潮が小蛇行流路をとり、潮岬から離岸した状態では、振り分け潮の出現が確認されなかった。このときの流況は表層と底層で流向が全く逆転していたり、短時間で流速場が大きく変わるなど、非常に不安定で変動性に富むものであった。 今後は対象海域を紀伊半島南東海域まで拡大し、さらに詳細な調査を実施する予定である。
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