人工衛星から得られた海面熱フラックスの観測値と数値計算で得られた表層流速場を用いて海洋の混合層の熱収支を評価した。昨年度は初期的な解析として、表層の厚さを50mと仮定し、北太平洋表層の熱収支の時間変動について既知の知見と整合性を持つ結果が得られた。今年度は、混合層の深さの季節変動が熱収支とその変動にどのように影響するかについて調べた。それによって、海洋混合層の貯熱量変動がより現実的に評価され、北太平洋域の内部領域における混合層の深さの季節変動に伴う混合層下部との熱交換が年々変動に影響を与える可能性が示された。 春から夏にかけて海面温度が上昇すると同時に混合層は薄くなり、ほぼそれに見合った下層への熱開放がある。このため、この時期に貯熱量変動はほとんどないことがわかった。秋から冬にかけて、混合層は下層水の取り込みによって冷却されるが、熱容量が大きくなるため水温は下がるが貯熱量は減少しない。貯熱量が大きく減少するのは冬期の強い海面冷却に依存することがわかった。 一方、貯熱量の年々変動は必ずしも海面における熱フラックスと1次元的にバランスしない。また、年変動サイクルに比べて相対的に水平熱輸送アノマリーの影響が強いなど、熱収支アノマリーは必ずしも平均的な年サイクルと一致しないことがわかった。しかし、昇温期に混合層が薄くなるときの下層への熱開放アノマリーと混合層の成長期の下層水の取り込みによる海面冷却アノマリーとがよく対応し、冬期の貯熱量アノマリーは、同時期の海面熱フラックスアノマリーのみならず季節的な混合層変動の強弱に依存した過去の貯熱量アノマリーの影響を受ける可能性が示された。 さらに、海面応力の年々変動による流速場の変動は特に北緯40度付近を中心にしたエクマン輸送の変化が顕著で、熱バランスの年々変動に影響し、水平熱輸送を考慮に入れた混合層変動のプロセスの解明が重要であることが分かった。
|