土壌水水質から水循環変動情報を抽出するための前段階として、入力としての降水の安定同位体組成の変動要因を既存データセットをもとに解析した。その結果、deuterium excess parameterが降水の起源域を、δ値が大気水輸送の経路を同定するのに利用できることが明らかとなった。また、従来指摘されていた温度や降水量による同位体組成の変化は我が国では普遍的に見られるものではなく、これらの変動の復元における同位体の利用は制約を受けることが分かった。 草地圃場における微気象・土壌水文観測ならびに降水・土壌水の水質モニタリングの結果からは、土壌水は基本的に降水の安定同位体組成を保存していること、また乾燥期には変質される度合いが大きいが、その程度は土壌面からの蒸発量に依存していることが見出された。土壌水中の塩素イオン濃度の鉛直プロファイルからは、土壌水のDatingが可能であることが示され、土壌水分プロファイルとあわせて地下水涵養量の評価が可能であることが明らかとなった。 以上の結果から、安定同位体組成や無機イオン濃度等の土壌水水質をトレーサーとして用いることにより、土壌ボーリングデータから、蒸発量・地下水涵養量・降水起源・大気水輸送経路などを含む水循環様式の変動を復元できることが確認され、そのための解析スキームが構築された。しかしながら、植物蒸散による土壌水水質変化に関しては不確定な要素が残され、また精密な定量的評価を行うためには解析スキームのさらなる改良が必要であることが認識された。
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