研究概要 |
イノセラムス科に属する白亜紀二枚貝,Sphenoceramus naumanni,S.orientalis,S.schmidtiの3種について,殻表面彫刻のパターンを解析した.まず,北海道中川町に露出する白亜系上部蝦夷層群の地質調査を行い,化石試料を系統的に採集した.化石をクリーニングした後,成長段階毎に異なる殻彫刻パターンに基づいて成長ステージを分け,それぞれの成長ステージが終わる殻の大きさと,各成長ステージ毎の同心円状肋の密度を計測した.その計測データに基づき,多変量解析の一手法である判別分析を行ったところ,これまで困難とされてきたSphenoceramusの幼体の種の区別に成功した.そこで,様々な層準から得られた化石標本について検討したところ,従来S.naumanniが産出しないとされてきた層準からも本種の比較的小さな個体が産出することが明らかとなった.従来,S.schmidtiをはじめとする本属の多くの種がS.naumanniとは共産しないと考えられてきたが,本研究の結果は,S.naumanniが本邦より報告されているSphenoceramus属のほとんど種と時代的に共存していたことを示しており,このことはS.naumanniがSphenoceramus属の系統の根幹をなす種である可能性を強く示唆する. また,S.orientalisに見られる殻彫刻パターンの著しい種内変異について,二枚貝の殻彫刻を再現する理論形態モデルを用いて解析した.その結果,本種の殻に見られる多様な殻彫刻パターンが同心円状の殻彫刻とV字状の彫刻との干渉の結果生成されることがわかった.加えて,V字状の肋要素が時代とともに強くなる傾向があることもわかった.これら理論形態学的解析の結果は,殻彫刻パターンによって多くの時代的亜種に細分されがちな本種の進化傾向を良く説明する.
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