研究概要 |
イノセラムス科に属する白亜紀二枚貝,Sphenoceramus naumanni,S.yokoyamai,S.cristatus,S.nagaoi,S.orientalis,S.elegans,S.schmidti,S.sachalinensisの8種について,北海道中川町共和地域および苫前町古丹別地域の白亜系上部蝦夷層群における産出層位と,殻彫刻や外形などの形態学的特徴から,分岐層序学的手法によって系統関係を推定した.その結果,S.cristatusとS.elegans,S.nagaoiとS.orientalis,S.schmidtiとS.sachalinensisとがそれぞれ独立の単系統群をなす分岐図が得られた.この結果は,S.naumanniからS.orientalisを経てS.schmidtiへ至るという,従来漠然と推定されていた系統仮説を支持しない. また,S.naumannからS.schmidtiを経てS.sachalinensisへ連なる進化系列について,殻の大きさ,外形,殻彫刻の時代的変化を定量的に解析し,形態進化の趨勢を種内向上進化と分岐進化のそれぞれについて検討した.その結果,量的形質に見られる大きな形態変化が質的形質に基づく形態種の分化時に集中していることが明らかとなった.加えて,上記3種の進化系列について,殻の膨らみや肋間隔の相対成長を解析し,これらの量的形質に見られる個体発生と系統発生との関係を検討した結果,殻の外形に見られる相対成長とその異時性的変化が,本属の殻彫刻に認められる異時性とは必ずしも調和しないことが明らかになった. また,二枚貝の殻彫刻を描くモデルを用いた理論形態的解析と分岐学的解析結果とから,双叉状の肋要素が時代とともに強くなる趨勢が複数の系統で独立に認められた.この結果は,本属以外のイノセラムス類一般に見られる進化傾向と調和的である.
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