1.北海道日高帯南縁部のニカンベツ岩体(大きさ1×2km、厚さ1.4km)で輝石を用いて系統的な温度構造の解析を行った結果、岩体下部は近隣の幌満岩体最上部とほぼ同じ平衡温度の1100℃の値を示し、岩体上部に向かって連続的に1250℃まで上昇することが判明した。従って、ニカンベツ岩体は、幌満岩体の最上部から連続する一連のマントルダイアピルの断片であることが確実になった。 2.低温部にあたる岩体下部のみざくろ石+かんらん石の分解生成物であるシンプレクタイトが存在するが、このbulkの組成は予想値よりAl含有量が乏しい。一方、周辺のスピネルはAlに富むリムが存在することから、ざくろ石の分解物から数十cmのスケールでAlが供給されたことが示唆される。イタリアのErro-Tobbiro岩体や幌満岩体下部で観察されるようにサブソリダスでの固相間反応ではスピネルのAlに富むリムは形成されないことから、このAlの供給過程には溶融過程が関わっていたと考えられる。 3.ニカンベツ岩体が記録している条件は、無水の場合でもスピネル相〜斜長石相でソリダス近傍となる。2.での考察結果や岩石組織の検証からも斜長石相で溶融していたことは明らかである。発生メルトから結晶晶出して形成された斜長石の中に世界の他のマントルかんらん岩体からは報告例のないCa-NaのOscillatory zoningが残留しているものがある。このOscillatory zoningの形態は、岩体の位置(すなわち平衡温度)によって変化し、低温部では単純なW型、中温部〜高温部では中心は鋸歯状で、縁辺部には低圧条件下で形成されたよりCaに富む鋸歯状の累帯構造が取り囲む複雑な形態を示す。これらの累帯構造が残留するためには、岩体(マントルダイアピル)の減圧上昇とともにメルトの発生と移動が連続的に起こる条件が必要である。また岩体内での累帯構造の形態の変化は、メルトの発生量とメルトの連結度の違いによって説明可能である。
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