研究概要 |
本研究のゴールは,富山湾をモデルケースにして,海水・懸濁粒子・コロイド粒子の希土類元素を測定し,固相-液相間での金属元素のダイナミクスを明らかにすること,河川のみならず,海面下に湧出する地下水系に注目し,その海洋環境への寄与を正しく評価することにある。本年度は,この目標を達成するために以下のことを行った。 コロイド粒子を定量的に採取するシステムの条件の最適化とホールファイバーの洗浄方法の検討・装置のブランクを決定した。また,試料処理の間のメモリー効果に関する検討も行った。実際の現場への応用は来年度とした。 富山湾の表層下200mに存在する日本海固有水の平均的な海水の希土類元素の濃度とそのパターンの把握を目的に日本海でこれまでに採取した海水に関する希土類元素の測定を行った。その結果,浅層では南から北に向けて濃度増加する一方,2500m以深では比較的一様の濃度であった。さらに,隣り合う重希土の濃度比Ho/Erも一致していることから、2500m以深は同じ水塊と判断できた。一方,南の点の2500m以浅の希土類濃度が増加していることは、浅層水と日本海北部で沈み込んだ深層水との混合で説明でき、日本海の深層循環過程を表していると考えられる。また,富山湾での地下水系の試料採取点の決定とその基礎的な調査に平行して,松前海台南西方、奥尻海嶺東斜面および茂津多岬沖において海底堆積物や底層海水を採取し,その間隙水の化学特性や底層の希土類元素の測定を行った。間隙水の硫酸イオンの急激な減少は,初島沖のそれに匹敵し,ここでの湧水活動が沈み込み帯特有の湧水系であること,深部からのメタンの供給がここでのバクテリアの生態系の維持に関与している可能性が示唆された。今後,富山湾の観測を行いバックグラウンドとしての今年度の結果とを対比していくことが課題である。
|