昨年度に引き続き、ミセル溶液中に束縛されたラジカル対のスピン運動のコヒーレントな運動の様相を明らかにし、さらにその緩和現象から、ラジカルの拡散運動との関連について明らかにした。特に通常のフリーラジカルにおいては見られない、ラジカル対特有の量子ビート運動がラジカル対の再結合反応性に現れることを、実験的に明らかにした。さらに、その減衰について応用リュービル方程式によるモデル計算から検討した。その結果は従来ラジカル対系における位相緩和因子の主なものと考えられてきた交換相互作用の揺らぎよりも、その他の相互作用であるスピン双極子相互作用の寄与が非常に顕著であることを示しており、従来の常識を破るものである。この成果についてまとめて論文として投稿した。 さらに、本研究の発展として、低磁場中でのラジオ波による化学反応制御研究へ向けての装置の構築した。本装置は磁石による外部磁場およびコイルを用いたラジオ波場中において過渡吸収を測定することにより、光反応中間体ラジカル対のダイナミクスに対するラジオ波パルスの効果を観測するものである。この装置を用いることにより、より一般的環境場である微小磁場領域におけるラジカル対ダイナミクスに対する電磁波の効果を明らかにすることが出来る。装置の構築はほぼ完了したので、今後本装置を用いた観測が期待される。
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