研究概要 |
電子・振動相互作用は,共役πの電子系の分子振動を扱う際に最も重要な問題の1つである。近年においては,電子相関の効果を取り入れた電子波動関数を用いて,共役π電子系の分子振動を数値計算できるようになり,電子・振動相互作用の定量的評価という点に関しては,解決の方向に向かっている。しかし,共役π電子系における電子-振動相互作用に対する理解を深めるためには,振動力場(スペクトルの横軸)のみではなく,赤外・ラマン強度(スペクトルの縦軸)にも注目する必要がある。また,共役π電子系分子が持つさまざまな光学的性質に対する分子振動の寄与を考察する際にも,電子・振動相互作用に対する理解が重要な鍵になる。本研究では,このような考察に基づき,以下の2点について研究を行った。 (1)赤外・ラマン強度に関係した,分子振動に伴う電子構造変化の解析 平成10年度までに考案した理論モデルをさらに拡張し,赤外・ラマン強度に関係した電子構造変化を大きな分子系について論じるための,理論的手法について検討した。大きな分子系は,多くの振動自由度をもつため,赤外・ラマン強度に大きく寄与する振動を的確に取り出す必要がある。この目的には,以前に考案した3次元doorway-state理論(intesity-carrying modesの理論)を用いた。これにより,複雑な共役π電子ネットワークを持つ分子に関しても,電子-振動相互作用の様子を明確にすることができた。 (2)分極した共役π電子系のさまざまな光学的性質と電子-振動相互作用との関係の解析 分極した共役π電子系分子が持つさまざまな光学的性質に重要な超分極率に対する分子振動の寄与を,intensity-carrying modesの理論を用いて解析した。超分極率に対する分子振動の寄与を表す表式に含まれる双極子微分・分極率微分などを生み出す振動モードの形を詳細に検討した。
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