本年度は以下に挙げる気相光化学反応系及び固相気相界面反応の機構解明に取り組んだ。(1)1重項第1励起状態(S_1)に励起されたグリオキサールのアルゴン原子衝突による3重項第1励起状態(T_1)への誘起系間公差は分子内スピン-軌道相互作用と回転緩和によって起こると考えられてきた。そこで、非経験的分子軌道法及び半古典動力学法を用いてこの反応系を取り扱った結果、実際には分子間スピン-軌道相互作用が重要な役割を果たしていることがわかった。(2)常温においてスチルベンはcis-trans異性化反応を起こさないが光励起することにより容易に異性化する。そこで、スチルベンのエチレン部の捩れを反応座標として基底状態及び一重項第一・第二励起状態についてのポテンシャルエネルギー面を非経験的分子軌道法によって求め、異性化反応のメカニズムを考察した。(3)化学気相成長は固相・気相界面での多くの素過程群から成り、反応機構の解明は容易でない。しかし、密度汎関数法などの進歩によりこの複雑な反応系も取り扱えるようになってきた。そこで、ジメチルアルミニウムハイドライド(DMAH)によるアルミニウムの化学気相成長を取り上げ、エピタキシャル成長の機構を量子化学的手法によって考察した。結果として、DMAHの解離性吸着によりメチル基が解離する、律速段階は表面上でのメチルアルミニウムハイドライドからの水素原子の解離である、等を明らかにした。
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