エネルギー移動過程の機構の解明は新しいエネルギー変換系を構築するために、また自然界に存在する多くのエネルギー変換過程を理解していく上で重要な課題である。これまで物理化学的手法により研究されてきたエネルギー移動過程が不対電子をもたない場合が多数をしめる一方で実際の自然界やエネルギー変換デバイス系には金属または有機不対電子が存在している場合が少なくない。本研究では不対電子をもつ二つのユニットからなる超分子系の光励起状態のダイナミクスをスピン選択性という観点から主に光分光学的手法と時間分解ESR法によって明らかにすることを目的とした。 まず、ベンゼン、ナフタレン、フェナンスロリンを架橋子としてもつゲーブル型の一連の銅-フリーベースポルフィリンダイマーに着目した。フリーベース部の項間交差速度が、2つのクロモフォア間の弱い交換相互作用によって10-30倍加速することを見いだし、この相互作用が主にthrough-bondタイプの相互作用であることを示した。一方、理論的に、遠隔不対電子をもつ系の項間交差速度を2つのユニット間の相互作用によって定式化し、架橋子依存性の関係式を導出すると共に、項間交差のスピン準位選択性を予測した。 また、2つのユニット間の相互作用における配向の違いを検討するため、head-to-tail型のポルフィリンダイマーの合成を試みた。これまでベンゼンのパラ位で架橋した銅(II)-フリーベースおよびバナジル-フリーベース系のダイマーを合成し、基礎的な測定を行っている。予想に反してゲーブル型よりも強い相互作用がみられ、配向が異なる場合の相互作用の取り扱いをさらに検討していく予定である。
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