エネルギー移動過程の機構の解明は新しいエネルギー変換系を構築するために、また自然界に存在する多くのエネルギー変換過程を理解していく上で重要な課題である。これまで物理化学的手法により研究されてきたエネルギー移動過程が不対電子をもたない場合が多数をしめる一方で実際の自然界やエネルギー変換デバイス系には金属または有機不対電子が存在している場合が少なくない。本研究では不対電子をもつ二つのユニットからなる超分子系の光励起状態のダイナミクスをスピン選択性という観点から主に光分光学的手法と時間分解ESR法によって明らかにすることを目的とした。 本年度は11年度のゲーブル型のダイマーの結果を発展させるため、特に2つのユニット間の配向の違いによって相互作用がどのように変化するかを明らかにした。2種類のフェニル基、およびビフェニル基を架橋子とするhead-to-tail型の銅(II)-フリーベースポルフィリンダイマーにおいて、フリーベース部の項間交差速度が他方の銅(II)のd不対電子との交換相互作用によって著しく増加する。その増加の割合はフェニル基架橋のダイマーでこれまでゲーブル型の場合に架橋子の結合数によって予測される値をはるかに上回っていた。一方、ビフェニル基の場合にはこのような現象は観測されなかった。前者では2つのポルフィリン環がほぼ並行な位置関係を保っているが後者では約40-45度傾いている。2つのポルフィリン環が平行な場合に両者の間の交換積分が大きくなることが示唆された。
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