われわれは高温パルスアーク放電法をさらに発展させた二段階パルスアーク放電法を開発し、単層ナノチューブの前駆体を生成することに成功し、それらの成果を2報の論文にまとめ、さらに3報ほど準備中である。従来、ナノチューブの生成過程を研究した例として、温度や圧力などの生成パラメーターを変化させる方法、および、レーザーによる加熱からの炭素物質の変化を高速ビデオを用いて分光学的に調べる手法がある。しかし、これらの方法では、詳しい生成過程を追跡することは困難であった。特にナノチューブの生成過程では、前駆体である金属・炭素微粒子の形成と高温度雰囲気下による成長というモデルが提唱されてきたが、決め手となる実験結果は得られていなかった。これは、従来の生成手法では、一度生成反応が始まるとそれを停止することができないためであった。われわれのパルスアーク放電法は、パルス幅を制御することにより、生成過程を時間に制御することができ、生成過程を停止したり、再開させたりすることができる。 Y/Ni混合黒鉛電極を600usのパルスアーク放電を用いて蒸発させ、ナノチューブ前駆体を生成した。この前駆体を高温炉に通し加熱させ生成物を調べたところ、900℃以上の場合のみ、ナノチューブが生成した。これは、常温パルスアーク放電でナノチューブ前駆体が生成し、高温炉熱緩和によりナノチューブに成長したことを示す。パルスアーク放電幅依存性から、前駆体の生成には1ms程度の時間が必要で、ナノチューブ成長では数10ms以上の時間が必要なことが初めて明らかになった。このナノチューブ前駆体には1nm程度のナノチューブと同程度の直径を持つ金属微粒子から10nm程度の短いナノチューブが多数生成しており、このような短いナノチューブと微少金属微粒子がナノチューブ生成の前駆体であることが示唆された。このナノチューブ前駆体を加熱することによりナノチューブが生成することも高温下でのTEM観察からも明らかになっており、ナノチューブ生成の実時間観察も可能になると思われる。
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