本課題研究は、極短光パルスを発生させ、それを使った時間分解吸収分光により光励起直後の極めて短い時間内におこる分子ダイナミクスを解明することを目的に、二年度にわたって取り組んでいる。初年度にあたる平成11年度は、研究計画にそって、まず極短パルスを発生させる光パラメトリック増幅器を製作した。この増幅器では、サファイア中で発生させたフェムト秒白色シード光を非線形結晶中での非平行位相整合過程を利用して増幅し、非常に広帯域な増幅光をえている。プリズム対をもちいてこの増幅光の位相分散を高次項まで補償することにより、最終的に500-750nmで波長可変な時間幅10フェムト秒、パルスエネルギ-10μJという極短パルスを発生させることができた。 次いで、この10フェムト秒パルスを用いて、近紫外(320nm)ポンプ・可視(640nm)プローブ時間分解吸収測定を試み、35フェムト秒というこれまでになく高い時間分解能を達成することができた。この高い時間分解能を駆使して、トランススチルベン(ヘプタン溶液)のS_n←S_1吸収の時間変化を測定した。この結果、光励起後1ピコ秒以内に、S_1状態での振動コヒーレンスを反映すると考えられる振動成分を観測することができた。この成分のフーリエ解析から得られた振動スペクトルは波数200cm^<-1>に強いピークを示したが、これはS_1状態での面内変角振動(ν_<25>)に対応することがわかった。報告されている蛍光励起スペクトルや過渡ラマンスペクトルとの比較から、振動コヒーレンス信号の強度はS_n←S_1のみならずS_1←S_0遷移でのFrank-Condon因子によって決まることが明らかとなった。現在、これらの結果をまとめた論文を投稿準備中である。
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