本課題研究は、極短パルス光源を製作し、それを使った時間分解吸収分光により光励起直後の極めて短い時間内におこる分子ダイナミクスを解明することを目的に、二年度にわたって取り組んだ。二年目にあたる平成12年度には、研究計画にそって、まず極短パルス光源の改良をおこなった。現有するチタンサファイア再生増幅器出力で二台の光パラメトリック増幅器を同時に励起し、それぞれから独立に波長可変な可視10fsパルスを発生させることに成功した。このうちの一方の出力を非線形結晶を使って第二高調波に変換することにより、紫外ポンプ、可視プローブの時間分解吸収分光測定が可能となった。この測定の時間分解能は約40fsである。この高い時間分解能およびポンプ光・プローブ光の独立波長可変性により、この分光装置の適用範囲が格段に広がったといえる。 次いで、この分光装置を駆使して、トランススチルベン(ヘプタン溶液)を紫外(320nm)ポンプ光で励起した場合に観測されるS_n←S_1吸収の時間変化をプローブ波長640nmおよび590nmで測定した。この結果、どちらの波長においても光励起直後から約1ピコ秒にわたって、S_1状態での振動コヒーレンスを反映すると考えられる振動成分(ビート信号)を観測することができた。この成分のフーリエ解析から得られた振動スペクトルは波数200cm^<-1>に強いピークを示したが、これはS_1状態での面内変角振動(ν_<25>)に対応している。この振動モードの特異的に強い寄与について考察をした結果、ビート信号の強度はS_1←S_0およびS_n←S_1の両方の遷移でのFrank-Condon因子によって決まることがわかった。このことにもとづき、Frank-Condon因子についての情報を含む他の分光データ(S_1-S_0蛍光励起スペクトルやS_1状態過渡ラマンスペクトル)を参考にしてビート信号強度を見積もった結果、観測されたビート信号強度を定量的に説明することができた。これらの結果はすでに欧文誌に発表した。
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