研究概要 |
液体中の中性およびイオンクラスターの構造とダイナミックスの詳細を明らかにするために,本年度は以下の実験的,理論的研究を行った。 1ピコ秒時間分解ラマンおよび赤外吸収分光法の光源となるピコ秒一フェムト秒ダブルビーム光源システムを製作した。1kHzの繰り返し周波数で1μJ以上の強度を保ち,紫外(189nm)から赤外(l1300nm)まで二色で独立連続波長可変を実現した。さらにこの装置を用いて,極性溶媒中におけるビフェニルカチオンとトランススチルベンカチオンの時間分解ラマンスペクトルを測定し,ビフェニルカチオンのラマン強度が装置関数(約3ps)で立ち上がるのに対し,スチルベンカチオンのラマン強度の立ち上がりに遅れがあることを示した。立ち上がりの時定数は約16psであった。この結果は,スチルベンカチオンにおいて,光励起直後の状態から溶媒和したカチオンクラスターが生成するまでに,大きな構造変化が起きていることを示唆している。 2酢酸のラマンスペクトルの温度依存性と非経験的分子軌道計算から,酢酸は水溶液中では,side-on型の酢酸二量体およびその二量体の集合体を形成していることを明らかにした。この結果は,水は水同士で、酢酸は酢酸同士で水素結合クラスターを作り、分子レベルでは相分離(microphase)が起きていることを示している。一方,純液体中では、酢酸は固体の無限鎖が切断された長鎖や短鎖の酢酸クラスターとして主に存在し、それらが生成、消滅を繰り返していることがわかった。次年度では、このような液体中のクラスターの生成、消滅ダイナミックスを、今年度製作したピコ秒-フェムト秒ダブルビーム光源システムを用いて明らかにする予定である。
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