研究概要 |
初期の振動励起状態およびそこからの分子内、分子間緩和過程を調べるにはアンチストークスラマン線強度が直接的なプローブとなる。このプローブを用い、われわれは一酸化炭素結合形ミオグロビン(MbCO)の光解離状態とニッケルオクタエチルポルフィリン〈NiOEP)の(d,d)励起状態について、金属ポルフィリンの振動エネルギー緩和を調べた。NiOEPのν_4バンドについて、中心波数、線幅の遅延壁間依存性を測定した。いずれの変化も単一の指数関数でうまく表すことができ、時定数はそれぞれ9.6±1.2ps、9.5±3.3psであった。また、MbCOのν_4バンドについても同様の変化が見られ、中心波数、線幅変化の時定数はそれぞれ2.1±0.7ps、1.4±0.8psであった。これらはアンチストークスラマン線強度の時間依存性から求めた振動エネルギー緩和の時定数と非常によく一致した。NiOEPとMbCOでは振動エネルギー緩和速度が5倍ほど異なるにもかかわらず、どちらの分子についても、ストークスバンドの線形が振動エネルギー緩和と同じ速度で変化していることから、観測された線形変化は振動エネルギー緩和に関連していると考えられる。波数のシフト幅が大きいことから、単に低波数側に現れるホットバンドが振動エネルギー緩和に伴い減衰していくという考え方では、実験結果をうまく説明できない。したがって、ν=0→1遷移の振動数が振動エネルギー緩和に伴い変化すると考えられる。その原因としては、他の振動モードとの非調和カップリングがあげられる。また、他のバンドについても調べてみると、いずれも変化の速度はν_4バンドとほぼ同じであるが、変化の大きさはバンドによって異なった。上のモデルと考え合わせると、このバンドによる違いは非調和カップリングの大きさの違いを反映している可能性がある。
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