ラジカル対を経由する溶液中の光化学反応に対する超強磁場効果の機構解明を目的として、研究を行った。 1.約30Tの磁場を発生することのできるパルス電磁石を用いた時間分解過渡吸収測定装置を用いて、カルボニル化合物の光誘起水素引き抜き反応における、ラジカル対の減衰速度の磁場依存性を観測した。カルボニル化合物としてベンゾフェノン、そのフッ素置換体であるデカフルオロベンゾフェノン、およびナフトキノンを、水素供与体として水溶液中でミセルを形成するドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、およびポリオキシエチレンドデシルエーテル(Brij 35)を用いた。得られた結果は、緩和機構で説明できるものであり、定量的な議論を行うために、一重項・三重項ラジカル対における異方性を含めたスピンハミルトニアンの行列要素を計算した。これらの理論的計算結果を用いて、実測のデータをシミュレートして、g因子の異方性、緩和時間を推定することができた。これらの結果については、学術論文に発表する予定で、現在執筆中である。 2.30Tより更に強い磁場中での超磁場効果観測を目的として、磁場発生空間が広く、励磁の繰り返しが速く、室温で運用できる、光化学反応の磁場効果測定に適したパルス電磁石の開発を行った。まだ試作・試験段階であるが、上記条件を満たす電磁石としては材料的にも上限であると考えられる、40T級のパルス電磁石の製作が可能であることが分かった。今後、試験結果をもとに、本格的に運用可能な40T級のパルス電磁石を製作し、それを用いて、より強磁場中での光化学反応に対する超強磁場効果についての研究をすすめる。
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