ホスフィンオキシドはホスフィンと比較して、一般的により安定であり取り扱いも容易であるという利点がある。しかし、キラルホスフィンオキシドの合成例は多数知られているにもかかわらず、それらを不斉配位子として用いた反応例は少ない。そこで、我々はP-キラルビストリアルキルホスフィンオキシド配位子の新規合成をおこない、これらを不斉配位子として用いた触媒的不斉合成反応について検討をおこなった。 新規キラルホスフィンオキシド配位子は、当研究室で合成したP-キラルビストリアルキルホスフィンあるBisP^*及びMiniPHOSを基におこなった。BisP^*及びMiniPHOSのボラン体を三塩化リンより二工程で合成し、それらをそれぞれ酸化することにより望むキラルホスフィンオキシドを良好な収率で得た。また、それらは再結晶をおこなうことによって光学的に純粋なものを得ることができた。次に、触媒的不斉合成反応への検討として、三価の鉄をルイス酸として用いるDiels-Alder反応をおこなった。親ジエン体としてN-クロトノイルオキサゾリジノンを用いたところ、高いエキソ選択性で生成物が得られた。また、エナンチオ選択性も75%と良好な結果が得られた。比較として最も一般的であるキラルホスフィンであるBINAPのオキシド体を用いて反応をおこなった結果、不十分なエナンチオ選択性で生成物が得られた。このことから、今回合成したP-キラルビストリアルキルホスフィンオキシド配位子が不斉配位子として優れていることが明らかとなった。今後、種々の触媒的不斉合成反応に応用していく予定である。
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